夢の生活・1
フィリップはヨーロッパにある小さな王国に住む若者です。家族は祖母のマリア、父親のポール、母親のメアリー、そして一人息子のフィリップの4人で、家業は代々続く鍛冶屋業を継承した小さな鉄工所でした。入り婿だった祖父は早くに亡くなり、今は父親のポールと一人息子のフィリップの二人で細々と営業を続けていました。しかし折からの不景気の影響で注文は減る一方で、家計は火の車状態でした。
爪に火をともすような苦しい生活を続けているフィリップの憧れはこの国の王様でした。彼の夢はいつか王様のような生活をすることだったのです。しかし彼が豪華な調度品に囲まれて、広い部屋に住み、毎日おいしいものを食べ、多くの使用人にかしずかれ、何不自由することなく生活することを空想するたびに、それが決して叶わぬ夢であることを痛感して我が身が置かれた境遇を呪う循環を果てしなく繰り返すのでした。
ある日、朝から用事があると出かけていた祖母のマリアが帰宅すると、重要な話があるからと言って家族を食卓に集めました。家族4人が食卓に集まると深刻な表情をした祖母がおもむろに口を開きこう告げました。
「私はこの鉄工所を閉じる決心をしたよ。不景気で注文は減る一方で経営はもうどうにもならないところまで来ているからね。」
突然の祖母の決断に家族全員が一瞬凍り付いたように固まってしまいましたが、すぐに父親のポールがこう叫びました。
「母さん、そんな重要なことを一人で勝手に決めないでくれよ。鉄工所を閉めてその後の生活はいったいどうするつもりなんだよ。」
フィリップの父親の意見はもっともだと思いました。いくら鉄工所の経営が苦しくても閉めてしまえばたちまち明日から食うに困ることになってしまいます。
父親の悲痛な叫びに対する祖母の回答はさらに驚くべき内容でした。
「鉄工所を閉めた後は王室のお世話になることにしたよ。」
今度はフィリップが思わず叫び声を上げました。
「おばあさん、気は確かかい?なぜ王室が俺たちの生活の面倒を見てくれるのさ。」
「これには深い事情があるんだよ。これまで秘密にしてきたけどね。」
祖母はそう言うと食卓の上に小さな箱を置きました。祖母がその箱のフタを開けると中には王室の紋章入りの手鏡と一枚の書き付けが入っていました。祖母がその書き付けを食卓の上に広げるとそこには手書きの文字でこう書かれていました。
「マリアが生む子どもは王室の血を引いていること証明する。」
そしてそこに書かれたサインは先代の王様のものに間違いありませんでした。
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